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衣服を盗み、逃げられない女と強引に結婚!? 羽衣伝説に秘められた「歴史の謎」とは

日本史あやしい話29

 

■執念深い蛇が元の姿だった?

 

 いずれにしても、ここに登場する天女とは、見目麗しく、且つ穢れも知らぬ可憐な女性たちばかりである。いわゆる悪女とは対局に位置する聖女ともいえそうな女性たちばかりと言えるだろう。

 

 ところが、同じ天女の名を冠してはいるものの、これとはかなり異質な様相を見せる天女もいた。それが伝わるのが、山梨県早川町と千葉県富浦町である。両地に伝わる七面天女がそれ。ともあれその系譜が凄い。

 

 父は、睨まれただけで息絶えると恐れられた徳叉迦竜王(八大竜王の一柱)で、母は、多くの人間の子を喰らっていたという鬼子母神だったというから、それを耳にするだけでも恐ろしそう。

 

 その娘である七面天女自身も、元の姿は蛇で、性格は執念深く、且つ嫉妬深かったとか。村に美しい嫁がやってくるとすぐに後家さんにしてしまい、村に可愛い子が産まれると早死させたとも。それでも、後には仏の加護を得て改心し、村人たちの守護神になったといわれている。

 

 その化身とされるのが、吉祥天や弁財天であるといわれるのも気になるところ。いずれも仏教の守護神として幸や福をもたらしてくれるありがたい神さまであることはいうまでもないが、それが七面天女と同一となれば、少々複雑な面持ちにさせられてしまいそう。

 

 その吉祥天さえ、妹は災いをもたらすとして恐れられた黒闇天であったし、さらには、俗説ではあるが弁財天が嫉妬深いとの説も、あらためて思い起こしてしまいそうになるのだ。

 

■菅原道真は天女の子か?

 

 ちなみに、吉祥と聞いて思い出すのが、菅原道真である。彼の幼名が吉祥丸(阿呼とも)であったといわれることもあるからだ。

 

 この幼名と吉祥天が果たしてどう関連するのかはわからないが、余呉湖に伝わる伝承として、天女が産んだ子が菅原道真(父は桐畑太夫とも)であったとの伝承からすれば、そこに何らかの繋がりがあったことが考えられそうだ。また、前述の余呉湖の男・伊香刀美を中臣氏の祖・伊賀津臣命と見なす向きもある。

 

 いずれも神話、あるいは伝承の域を出る話ではないとはいえ、全くのデタラメだとは考えたくない。神話伝承の中にさえ、わずかといえども、何らかの真実の一端が必ずや見え隠れしているはずと考えられるからだ。それを追求することで、謎とされる歴史の解明が進むことを期待したい。

 

 

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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